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心理臨床系教員・院生の「お仕事」エンカウンター・グループと本研究室若手の心理臨床家をどう育てるか私の心理臨床私のグループ・アプローチの実践と研究



私のグループ・アプローチの実践と研究


I.私のグループ・アプローチとの出会いと取り組み

 私にとって体験という意味でのグループ・アプローチとの出会いは、1970年のエンカウンター・グループとの出会いである。その後およそ39年間にわたり、健康な人(中学生、高校生、専門学校生、大学生、看護師、教師、養護教諭、電話相談員、一般人等)の心理的成長やトレーニングのためのエンカウンター・グループ、精神科病院における精神病者(統合失調症者)のセラピィのためのエンカウンター・グループチックなグループの実践と研究に取り組み、現在に至っている。

 

II.エンカウンター・グループの実践と研究

1.エンカウンター・グループのメンバー体験

 1970年の夏(修士課程1年生)に、(村山正治らが中心の)福岡人間関係研究会主催のエンカウンター・グループにメンバーとして初めて参加した。数回目のメンバー体験では、心理的損傷を受ける経験をした。私はエンカウンター・グループを修士論文のテーマにしようと思ったので、テープ録音や質問紙調査をさせてもらっていたが、そのことと関連して私の参加態度が「傍観者的である」との攻撃を数名のメンバーから受けたのである。このため私は抑うつ的となり人に会うことが怖くなった。その後、グループ研究をしていくなかで、これはスケープ・ゴーティングであったのでは思った。

 1974年の夏休み(博士課程3年生)には、「本場のエンカウンター・グループを体験してみたい」、「エンカウンター・グループのメッカに行ってみたい」との気持から、アルバイトでお金を貯めて、米国のラホイヤ・プログラム(17日間)に参加し、あこがれのロジャースと直接会ってハギングもすることもできた。このプログラムは、主にスモール・グループ(ベーシック・エンカウンター・グループ)、コミュニティ・ミーティング(100名以上の全参加者によるミーティング)、インタレスト・グループ(スタッフ、参加者がやりたいことをボードに掲示し、関心ある人が集まる)で構成されていた。その後は、折々にメンバー体験を続けている。

 

2.エンカウンター・グループのファシリテーター体験

 エンカウンター・グループの最初のファシリテーター体験は、福岡人間関係研究会主催の1971年3月(修士課程1年生)の3泊4日のグループであった。それ以後、福岡人間関係研究会、(畠瀬稔らを中心とする)人間関係研究会主催のグループ、教育センター、看護学校、看護協会、電話相談機関等主催のグループ(非構成的グループ、構成的グループ、半構成的グループ)のファシリテーター体験をするようになった。平均すると年に3〜4回で、合計は150回くらいである。

 

3.エンカウンター・グループの研究

 (1)私のエンカウンター・グループの最初の研究発表は、1971年の日本心理学会における「エンカウンター・グループの基礎的研究」(野島 1971)である。これと畠瀬稔の「エンカウンター・グループに関する研究(1)」の2つが、わが国の最初のエンカウンター・グループの研究発表であるということが、ある臨床心理学の教科書には記載されている。

 (2)1972年1月には、「エンカウンター・グループの臨床心理学的研究」という修士論文を書いた。この論文には、4つのエンカウンター・グループについての事例研究と、4人のエンカウンター・グループ経験者の事例研究が詳細に書かれ、考察が行われている。

 (3)1970年代の終わり頃より、それまでの非構成的なグループ(ベーシック・エンカウンター・グループ)とは違ったスタイルである構成的エンカウンター・グループにも取り組み始めた。というのは、看護学校や看護協会から依頼されて研修型のエンカウンター・グループを担当した場合,自発参加ではなくて強制参加であるために、グループ・プロセスがなかなか進展しにくいことから、構造化の程度を高めざるをえなくなったからである。野島(1980)参照。ちなみに2つのスタイルのファシリテーター体験の比較については野島(1989)参照。

 (4)1982年には、「エンカウンター・グループ・プロセス論」(野島,1982a)を発表し、グループ・プロセスを導入期〔村山・野島の発展段階仮説(村山・野島,1977)で言えば段階?〜段階?に相当〕、展開期〔同仮説で言えば段階?〜段階?以降に相当〕、終結期〔同仮説で言えば終結段階に相当〕に分けて、それぞれの時期における諸問題について検討した。

 (5)また同年には、「エンカウンター・グループ構成論」(野島,1982b)を発表し、グループ構成における特に重要な4大要素(目的、スタッフ、グループ編成、場面設定)について詳細に論じた。

 (6)1983年には、「エンカウンター・グループにおける個人過程─概念化の試み─」(野島,1983)を発表し、エンカウンター・グループにおける個人過程は,相互に密接な関連のある6種類の過程(「主体的・創造的探索」過程、「開放的態度形成」過程、「自己理解・受容」過程、「他者援助」過程、「人間理解深化・拡大」過程、「人間関係親密化」過程)に分けられるということを論じた。

 (7)1988年の本学会の第5回大会のパネルディスカッション「日本の集団精神療法の今後」では、私は「『集団精神療法』と『集中的グループ経験』」の交流を求めて」というテーマで発言し、両者の交流の意義と可能性について強調した(野島,1988)。

 (8)1998年に、「エンカウンター・グループの発展段階におけるファシリテーション技法の体系化」という博士論文を書いた。これは、4つのグループ事例(低展開グループ、中展開グループ、非典型的な高展開グループ、典型的な高展開グループ)を提示し、総合的考察においてエンカウンター・グループの3つの発展段階(導入段階、展開段階、終結段階)ごとに、5つのファシリテーションのねらい(グループの安全・信頼の雰囲気形成、相互作用の活性化、ファシリテーションシップの共有化、個人の自己理解の援助、グループからの脱落・心理的損傷の防止)から具体的なファシリテーション技法を細かに論じ、体系化したものである。この論文は2000年に出版された(野島 2000b)。

 (9)2000年には、「日本におけるエンカウンター・グループの実践と研究の展開:1970-1999」を発表し、30年間の実践と研究状況を総括し、この30年間のエンカウンター・グループの米国での衰退と日本での隆盛についてコメントするとともに、今後の実践と研究の問題と課題について考察を行った。

(10)2006年に「半構成方式」エンカウンター・グループを提案する論文(森園・野島 2006)を心理臨床学研究に掲載した。そのいきさつは、20年ちかく某看護学校で研修型エンカウンター・グループを非構成的グループで続けてきたが、最近の看護学生にはこの構造はかなりきついので構成的グループに切り替えてほしいとの教務主事からの要請があって、それまでの非構成的グループと一般に行われている構成的グループの中間のスタイルとしてこれが生まれたのである。その特徴は、グループ構成は非構成的グループに準拠(ファシリテーター1名、メンバー10名前後;2泊3日;計7セッション)、各セッションのテーマ設定(自己紹介およびグループへの期待と不安、私の進路をめぐる過去・現在・未来、友人・異性・仲間、野外エンカウンター・グループ、家族、私のキーワード、言葉の花束)、メンバー全員の発言時間の設定にある。

 

III.エンカウンター・グループチックなグループの実践と研究

 (1)最初のエンカウンター・グループチックなグループは、1972年より某精神科病院で数年間の実践を行った。これについては、1972年に西日本精神神経学会で、「エンカウンター・グループの精神科領域への導入の試み」として発表した(野島 1972)。

 (2)その後、1987年4月より精神科デイケアのプログラムの一つとして「心理ミーティング」を開始し、22年目に入り1000セッションを超えた。このグループの目的は、自己理解、対人関係の学習、再発の予防、社会復帰の心の準備の4つであり、スタッフ2名とメンバー(統合失調症者)5〜6名で、毎週75分間、テーマ設定なし(今ここで話したいこと・話せることを話す)のミーティングを行うものである。このミーティングの前にはプレ・スタッフ・ミーティング(15分間)、後にはポスト・スタッフ・ミーティング(30分間)の時間が設定される。この実践については、本学会でも毎年、発表をしてきた。野島・五十里他(1991)参照。

 (3)近年は、(中国や台湾の留学生の)院生やOBによる(母国語による)中国人就学生のための毎月1回、2時間のグループを某国際交流協会の一室で行っている(廣・孫他2006)。というのは、就学生は留学生と比べてメンタルヘルス状況が悪く、心理支援が必要だと考えたからである。

 (4)2005〜2006年度には、科学研究費補助金を得て、某日本語学校の中国人就学生を対象に2年間にわたり、心理支援プログラムとしてグループを実施した(野島,2007)。

 (5)また母国語(韓国語)による保育園児・小学生の“保護者の集い”も毎月1回、2時間、開催している(金・金他 2006)。というのは、韓国から日本に来て、子どもを日本の保育園・小学校にやっている保護者は、「自分の子どもがいじめられるのではないか」など考えてストレスが高いので,心理的サポートが必要だと考えたからである。

 (6)さらに毎月1回、女性同性愛者のためのグループも行っている(廣・野島 2006)。というのは調査の結果、女性同性愛者のメンタルヘルスはあまり良くなく、心理的サポートが必要でかつ有効であると考えたからである。

 

IV.エンカウンター・グループのファシリテーター養成

 1996年に九州大学で教員をするようになってからは、私自身のエンカウンター・グループの実践と研究の推進とともに、大学院生のファシリテーター養成に力を入れるようになった。というのは、何かの縁で野島研究室に所属するようになった大学院生(修士課程)には、2年間でエンカウンター・グループのファシリテーターが務まるようにしたいとの願いからである。野島(2001)参照。

 ファシリテーター養成の基本的なステップは次のようである。

(1)M1前期:?大学院入学の前後に、外部で開催されているエンカウンター・グループ(合宿型;非構成的グループ)の<メンバー体験>をする。?野島研究室主催の「エンカウンター・グループ in 九大」(2日間;通い;非構成的グループ)の<メンバー体験>をする。

(2)M1後期:?野島の学部の授業「グループ・アプローチ論演習」(90分で10数回)のティーチング・アシスタントとして構成的グループの<コ・ファシリテーター体験>をする。そして毎セッション後に、野島のグループ・スーパービジョンを受ける。野島・内田(2001)等参照。?野島研究室主催の「エンカウンター・グループ in 九大」の<メンバー体験>をする。?看護学校の研修型エンカウンター・グループ(2泊3日;非構成的グループ)で教員・先輩と組んで<コ・ファシリテーター体験>をする。そして毎セッション後に、野島のグループ・スーパービジョンを受ける。榊・野島(2003)等参照。?エンカウンター・グループ研究会(毎月開催)で事例検討を行う。

(3)M2前期:?野島研究室主催の「エンカウンター・グループ in 九大」で先輩と組んで<コ・ファシリテーター体験>をする。そして毎セッション後には、野島のグループ・スーパービジョンを受ける。?エンカウンター・グループ研究会(毎月開催)で事例検討を行う。

(4)M2後期:?野島研究室主催の「エンカウンター・グループ in 九大」でキャンディデイト同士で組み<ペア・ファシリテーター体験>をする。そして毎セッション後には、野島のグループ・スーパービジョンを受ける。?看護学校の研修型エンカウンター・グループ(2泊3日;非構成的グループ)で後輩と組んで<メイン・ファシリテーター体験>をする。そして毎セッション後には、野島のグループ・スーパービジョンを受ける。?エンカウンター・グループ研究会(毎月開催)で事例検討を行う。

 

V.おわりに 

 1970年以来、約40年間にわたってグループ・アプローチの実践と研究を続けてきたが、グループ・アプローチの魅力は全く色あせることがない。それどころかグループ・アプローチをもっといろいろな問題や領域に適用したいとの思いがますます強くなってきている。グループ・アプローチの多様性と可能性はまだまだ広がりかつ深まっていくと思う。

 最後に少しだけ、グループ・アプローチ(「三者以上関係」)と個人アプローチ(「二者関係」)について述べたい。グループ・アプローチは、時間的・労力的・金銭的に経済的であるだけでなく、個人アプローチとは異なる種々の治療機序(愛他性、観察効果、普遍化、現実吟味、希望、対人関係学習、相互作用、グループ凝集性等)が働きパワフルである。それで私は、グループ・アプローチについては「安かろう、良かろう」と思っている。

 ゼラピィ論では、個人アプローチが中心で、グループ・アプローチは補助的であるという考えが一般的であるように思われるが、私はその逆ではないかと考えている。というのは、私たちの社会生活は、通常は「三者以上関係」の中で過ごすことが多いし、人間にとって「三者以上関係」の中にいる方が自然であるように思うし、セラピィも「三者以上関係」の中で行われる方が効果的であろうと考えるからである。グループ・アプローチ(「三者以上関係」)に耐えられない一部のクライエントの場合に、やむなく個人アプローチ(「二者関係」)を選択せざるをえないということではなかろうか。

 

付記

 私は、1983年から「わが国の『集中的グループ経験』と『集団精神療法』に関する文献リスト」を毎年作成し、関係者に配布している。これらのデータはインターネットでも公開しているので、参考にしていただければ幸いである。http://nojima2.hes.kyushu-u.ac.jp/

 

《参考文献》 

・ 金 鉉喜・金 奎卓・野島一彦(2006):母国語(韓国語)による保育園児・小学生・中学生の「保護者の集い」の試み. 心理臨床学研究,24(1),65-75.

・ 廣 梅芳・野島一彦(2006): 女性同性愛者のメンタルヘルス援助の試みーエンカウンター・グループ的サポート・グループをとおしてー. 日本心理臨床学会第25回大会発表論文集,233.

・ 廣 梅芳・孫 頴他(2006): 母国語(中国語)による就学生の心理支援の試み─エンカウンター・グループ方式による「中国人就学生の集い」─. 日本人間性心理学会第25回大会プログラム・発表論文集, 101-102.

・森園絵里奈・野島一彦(2006):「半構成方式」による研修型エンカウンター・グループの試み. 心理臨床学研究,24(3),257-268.

・村山正治・野島一彦(1977):エンカウンターグループ・プロセスの発展段階. 九州大学教育学紀要(教育心理学部門),21(2),77-84.

・ 野島一彦(1971):エンカウンター・グループの基礎的研究. 日本心理学会第35回大会発表論文集,671-672.

・ 野島一彦(1972):エンカウンター・グループの精神科領域への導入の試み. 第4回西日本精神神経学会総会抄録,25.

・ 野島一彦(1980):ゲーム・エンカウンター・グループの事例研究. 福岡大学人文論叢,12(2),419-454.

・ 野島一彦(1982a):エンカウンター・グループ・プロセス論. 福岡大学人文論叢,13(4),891-928.

・ 野島一彦(1982b):エンカウンター・グループ構成論.  福岡大学人文論叢,14(1),1-32.

・ 野島一彦(1983):エンカウンター・グループにおける個人過程─概念化の試み─. 福岡大学人文論叢,15(1),33-54.

・ 野島一彦(1988):「集団精神療法」と「集中的グループ経験」の交流を求めて. 集団精神療法,4(2),135-139.

・ 野島一彦(1989):構成的エンカウンター・グループと非構成的エンカウンター・グループにおけるファシリテーター体験の比較. 心理臨床学研究,6(2),40-49.

・ 野島一彦(2000a):日本におけるエンカウンター・グループの実践と研究の展開:1970-1999. 九州大学心理学研究, 1 (1) , 11-19.

・ 野島一彦(2000b):エンカウンター・グループのファシリテーション.ナカニシヤ出版.

・ 野島一彦(2001):臨床における訓練とは?エンカウンター・グループのファシリテーター訓練を提供する立場から?. 集団精神療法, 17(1), 10-12.

・ 野島一彦(2007):母国語(中国語)による日本在住の修学生の心理支援に関する研究.平成17・18年度科学研究費補助金(萌芽研究)研究成果報告書(課題番号 17653080)

・ 野島一彦・五十里瑞枝他(1991):デイケアにおける「心理ミーティング」導入の試み?その効果と意義をめぐる検討?. 集団精神療法,7(1),49-54.

・ 野島一彦・内田和夫(2001):「コ・ファシリテーター方式」による構成的エンカウンター・グループのファシリテーター養成の試み. 九州大学心理学研究,2,43-51.

・ 榊 祐子・野島一彦(2003):「コ・ファシリテーター方式」によるベーシック・エンカウンター・グループのファシリテーションに関する事例研究─<積極的活性化>と<自発性尊重>のコンビネーションを中心に─. 九州大学心理学研究,4,315-323.

  (集団精神療法,25(2),114-118,2009より)

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